【作品紹介】
ある時期思った僕の理想の将来像を短編小説として綴りました。『旧・デッサン』ではエロ描写満載でしたが、『北向きのアトリエで』ではそれらをすべて排除しています。僕は50歳も過ぎて純文学を目指そうと真剣に考えました。そのためには、官能的な文章も必須であると思い日々練習を重ねていたところ、最近の小説からは一切、エロ描写がなくなっていることに気づかされました。川端康成『眠れる美女』、谷崎潤一郎『痴人の愛』、田山花袋『布団』※など日本を代表する文学には必ず、赤裸々な官能表現が存在します。Z世代、ゆとり世代の若者と少ないながらも会話する機会があります。学生時代、ラグビーや野球に親しんでいたという彼らも、草食系には見えませんが、エロなど、読みたくもないし、口に出したくもないといいます。そんな世の中になったのですね。

※【田山花袋『布団』について】
30代半ばの大学教授にして文筆家の邸に神戸から女子大生がやって来る。彼には妻子があり、彼女には華があった。明白な求愛行動があったわけではないが、師弟間で交わされた文章には、見方によっては、相思相愛の様相が見てとれる。ある時、実家の都合で彼女は神戸に呼び戻される。その後、主を失った2階和室を文筆家が訪れる。やおら押し入れを開け、彼女の布団を敷き、ネマキを広げ、そこへ突っ伏し顔を押しつけながら、寂しさの余り、嗚咽する——短くいえばこんなストーリーである。赤裸々過ぎる表現に、当時の社会(明治末期)からは一時、無視された。また、師弟は実在の人物であり、日本の私小説の第1号ともいわれている。彼らは週刊誌の記者により特定され、その後の人生が大きく変わってしまう。
小倉 一純