父と山本さん

短編小説
朝鮮海峡(Wikipediaより)
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【作品紹介】

登場人物の山本さんは、北大卒。その同期入社(旧電々公社)に、東大卒の遠藤正介がいました。作家・遠藤周作の兄です。千代田丸事件の裁判が2人を分かってしまいました。法廷では、皮肉にも、その遠藤が先鋒として山本さんの前に立ちはだかることになりました。
僕は子供の頃から父に「山本さん」「山本さん」と耳にタコができるぐらい、その名前を聞かされてきました。僕が後年、北大を目指すことになったのも、ひとつにはこのことがあったからだと思います。
この作品は事実に基づいています。生前の父からの聞き書きです。ただ、僕が実際に見聞きしていないことも綴っています。その点を考えると「エッセイ」に分類することはできませんでした。短編私小説といったところでしょうか。

電々公社の職制は、中央省庁に準じたものだったと思います。良くも悪くも、東大をはじめとする旧帝国大学卒が幅を利かす職場です。遠藤正介は、文科系出身者では最高位の「総務理事」にまで昇り詰めました。「総裁」「副総裁」「技師長」(理科系最高位)に次ぐ地位です。電々は理科系偏重の組織でしたから。一方、山本さんは、13年の闘争を経て勝訴し、日比谷に移転した本社の部長(部下なし)として淡々と停年を迎えました。

なお、作品のモチーフともなった「千代田丸事件」ですが、戦後最大の労働争議とされています。

在りし日の、旧日本電信電話公社本社ビル(2022年頃撮影、日比谷の帝国ホテル向い)